今日は、知り合いの高校3年生の女の子のお話です。本人とお母さんには了承をいただいて、書いています。
「大学には行かない」と言った女の子
彼女は、勉強がずっと苦手だと思っていて、頑張ろうとも思っていなかったようです。赤点を取らないようにだけは、なんとかやってきた、という感じでした。
ちょっと不思議な世界観を持っている子で、授業中にふっと意識がどこか遠くへ行ってしまい、先生から指摘を受けることもあったようです。魚の絵を描くのが好きで、その絵がとてもきれいで、私も好きでした。
ある日、話す機会があって、高校3年生ということもあり、進路の話になりました。「専門学校や大学には行くの?」と聞いてみると、返ってきたのは、「行きたくない」ではなく、「行かない」という返答でした。
大学はお金がかかる。勉強は嫌い。どうせ受からない。だから就職する…と。
でも、どうしても本音には聞こえなくて。じっくり話を聞いていたら、ぽろっと本当の気持ちを話してくれました。
「本当は、絵の勉強をしてみたい」

でも、「受験はしたくない」と言うんです。専門学校で学びたいわけじゃないし、行くなら大学でキャンパスライフを送りたい、と話してくれました。
「お父さんも中途半端に行くなら行かなくていいって言うし、自分は頭が悪いから大学受験は無理だと思う」と、自信なさそうにつぶやいていました。親の言葉をそのまま受け止めてしまう子だからこそ、余計に諦めやすいのかもしれません。
行きたい気持ちと、自分には無理だという気持ちの間で、葛藤していたんですね。
お金のこと
お父さんの言葉は、私にはよくわかります。大学にはお金がかかります。調べてみると、私立の美術系の大学は、初年度に納める入学金や授業料などが、私が確認した大学で190万円台後半〜200万円台前半でした。国立の美術系大学でも140万円台〜150万円台です(学科や専攻で違います)。このほか、画材などの費用がどのくらいかかるかは大学や学科によって違うようなので、確認が必要です。地元から通える大学がなければ、一人暮らしの費用も加わります。
私にも子どもがいますが、「とりあえず進学する」というニュアンスなら、きっと「行かなくていい」と伝えます。
学費も安くはないですし、目的のない進学はお互いのためにならないと思うからです。だからこそ一方的に反対するのではなく、親としての考えをきちんと話して、子供と向き合いたいなと思います。
彼女は、自分の言いたいことをなかなか言えない子です。何かあると、すぐに「もういい」と言ってしまうんです。きょうだいが多いこともあって、遠慮していたのではないかと、私は思っています。お父さんの言葉を受けて、自分の気持ちに蓋をしてしまっていたように見えました。
働くことを選ぶのも、素晴らしいこと
ここはお伝えしておきたいのですが、高校を卒業して、自分で望んで働くことを選ぶ人もたくさんいます。それは本当に素晴らしい選択だと思っています。
私が気になったのは、彼女が仕方なく就職を選ぼうとしていたことです。自分には就職する道しかない、と自分で決めつけてしまっているように見えました。
私が彼女に進学を勧めたのは、「大学には行ったほうがいい」と言いたかったからではありません。進学も、選択肢の一つとして、一度ちゃんと考えてほしかったのです。
高校までは、同じ地域で育った似たような環境の友達と過ごすことがほとんどですよね。でも高校を卒業して進学すると、本当に全国いろんな地域から人が集まってきます。そこで過ごす時間や出会いは、社会人になってから得るものとはやっぱり違うのかなと思います。
もちろん、社会に出てから改めて進学を目指すこともできますが、後から挑戦するのは今以上に大変で、相当な覚悟がいります。だからこそ、最初から諦めてそのまま就職するだけじゃなくて、今このタイミングで進学を目指すことも選択肢に入れてみてほしかったんです。
調べてもいないのに、無理と思わないでほしい
だから彼女には、まずは自分で調べてみようよ、と話しました。お父さんのことはいったん置いといて、興味のある学部がある大学を探してみること。調べてもいないうちから「行ける大学なんてない」って決めつけないこと。
それから、ネットで探すだけじゃなくて、担任の先生や美術の先生にもすぐに相談してみてね、と伝えました。

もう高校3年の1学期だったので、もともと大学に行く前提で勉強してきたわけでもなく、成績がギリギリの科目もありました。そこで、「今からでも受けられる総合型選抜という方法があるよ」と教え、今の状況をすぐ先生に相談させました。出願の条件や基準を急いで調べてもらい、気になるところは夏休みのオープンキャンパスに申し込んで、実際に2校見に行くところまで行動してもらいました。そこから受験先をしぼり込んで決めるまでは、本当にバタバタでした。
総合型選抜は、書類や面接などで、学ぶ意欲や目的意識を見る入試です。「絵の勉強をしたい」という気持ちがはっきりしている子には、合う方法だったと思います。ただ、準備不足が気になるところではありましたが…。
お金のことも、一緒に考えました。給付型の奨学金、入学してからの学校独自の制度、アルバイトなど、いろいろな方法があります。(制度は年度や条件で変わるので、最新の情報を確認してくださいね。)
彼女が「大学で絵を勉強したい」と言ったので、お母さんにも、彼女とのやりとりを話しました。まずお母さんに納得してもらい、お母さんからお父さんに伝えてもらいました。そして、何を言われても、淡々と準備を進めました。そのうち、お父さんから何も言われなくなったそうです。
準備を進めていくうちに、彼女は、少しずつ表情が明るくなって、生き生きしてきました。
試験を終えて
そして、昨日と今日の2日間、試験を受けに行ってきました。最後まで受けきることができて、私は本当にうれしかったです。
帰ってきた彼女に様子を聞くと、「全然うまくいかなかった」と言っていました。 事前に提出する課題が2つあったのですが、1つは作品の背景やストーリー性を最後まで詰めきれなかったこと。そしてもう1つは、課題の捉え方を勘違いしてしまっていて、求められている内容とは違うものを出してしまったそうです。
その結果、面接でも思うように答えられず、全体的に残念な結果となりました。
ただ、こうなることは私の中ではどこか想定内でもありました。 たとえ絵を描くセンスがあっても、「自分の思いをはっきり表現する」ということを普段から避けてしまっていると、詰めの甘さが出たり、今回のような大きな勘違いを引き起こして、どうしても評価される場では結果が出にくくなるからです。
でも、私としては、こうした失敗や悔しさも含めて若いうちに味わってほしいと思っていました。
それは単に「試験に受かるかどうか」が大切なのではありません。 自分の弱さや傾向を知らないまま大人になり、的外れな環境で頑張りすぎて苦しんだり、自分を追い詰めたりしてしまう前に、こうした経験を一度通しておくことが大切だと思うからです。
失敗や違和感をちゃんと経験することで、「見直して修正していけることができるか」「自分はどんな環境なら無理なく力を発揮できるのか」「どこなら自分の良さを自然に評価してもらえるのか」ということが、少しずつ分かっていくはずです。
背負うものが何もない今だからこそ、自分の弱さから逃げずに向き合い、試行錯誤しながら自分に合った場所を見つける力を養っていってほしいなと思っています。
私が彼女に経験してほしかったこと
実は、私は、彼女が受かるかどうかを、一番の目的にしていたわけではありません。
話をしていて、彼女は、自分が選べる道を、自分で狭くしているように見えました。もちろん、ご家庭の考えがあるので、私の考えを押しつけるつもりはまったくありませんでした。親御さんにも、その気持ちをきちんとお伝えしています。
それでも、一度、いつもと違う場所に出て、同じ試験を受けに来た人たちに会って、自分と比べてみてみることや、自分の勘違いや、足りないところに気づくことで、たとえ結果が良くても悪くても、その経験が、これから先の彼女を助けてくれるものだと思います。
そしてもうひとつ、嫌なことがあると向き合う前に「もういいや」と逃げてしまうところも、少しずつ変えていけたらいいなと思っています。失敗や壁にぶつかったときに恐怖心から逃げるのではなく、「どうしていけばいいか」を多角的に考えたり誰かに相談したりできるようになると、そのぶん成長するスピードもずっと早くなります。
若いうちにたくさん経験して早く気づくことができれば、一人で抱え込んで行き詰まってしまうことも軽減されるでしょうし、自分の強みを生かせる場所や選択肢も広がっていくはずです。
背負うものが何もない今だからこそ、自分の弱さから逃げずに向き合い、失敗も糧にしながら、自分に合った道を切り拓いていってほしいなと思っています。
人には得意なこともあれば、苦手なこともあります。彼女の場合、自分の世界観を絵で表現するのは得意な反面、苦手なことに対し時間がかかってしまったり、最後の詰めが甘くなってしまったりする部分がありました。
でも、苦手なことや自分の性質って、ゴロッと丸ごと変えるのってすごく難しいですよね。
大切なのは、ダメな部分を真正面から「ダメだ」と責めることではありません。自分の性質をそのまま理解したうえで、正面からどうにかしようとせずに「ちょっと角度をずらして行動してみる」とか「少しずつ変化させてみる」ということだと思うのです。
私のおせっかいだったかもしれません
正直に言うと、これは私のおせっかいかもしれません。
このまま就職したほうが、彼女にとって良い可能性もあります。就職してから、自分で大学を目指す道もあったかもしれません。私はそのチャンスを奪ったのかもしれないので、本当にそこは難しいところです。
それでも、あのときの「仕方なく」という雰囲気が、どうしても気になりました。だから、本当の気持ちを聞きたかったのです。
結果は、まだわかりません。どんな結果になっても、この経験が彼女のこれからに生きることを、心から祈っています。
大学入試の受け方
ここで、今の大学入試(美術系)の受け方を、簡単にまとめます。大きく3つあります。
一般選抜(2〜3月ごろ)
いわゆる一般入試です。学科試験の点数で決まります。美術大学では、これに加えて、デッサンなどの実技試験を行う大学もあります。点を取る力がそのまま結果になるので、試験が苦手な人には、正直かなり厳しい受け方です。
学校推薦型選抜(11〜12月ごろ)
高校の校長先生の推薦が必要です。大学が高校を指定する「指定校制」と、広く募集する「公募制」があります。日ごろの成績や活動が見られて、面接や小論文が中心です。
総合型選抜(9月以降に出願、11月以降に合格発表)
昔の「AO入試」です。高校の推薦は要らず、自分の意思で出願できます。書類や面接、課題を通して、「何を学びたいか」という意欲を見ます。学力も、何らかの形で見ることになっています。美術大学では、作品集の提出や、デッサンなどの実技を行う大学もあります。
どの形式が良い・悪いではなく、受ける側にとって合う・合わないやり方があるのではないかと思います。今は、大学に入る人のうち一般選抜の人は約半数を下回っていて、私立大学では半数以上が推薦や総合型での入学です。ただ、国公立大学は今も一般選抜が中心です。
総合型選抜は、一般選抜を避けるための近道ではありません。自分が何を学びたいかを考えて、書類や面接、作品で伝える入試なので、準備に時間がかかります。出願は高3の9月以降なので、早めに大学を調べたり、オープンキャンパスに行ったりしておくとよいと思います。
彼女は高3の1学期からのスタートだったので、時間が足りなかった面もあります。また、総合型や推薦で結果が出なかったときは、年明けの一般選抜を受けることになるので、その準備も頭に入れておく必要があります。今回の経験を経て、改めて今後どうしていきたいのかを家族で話し合っておくことが大事だと思います。
総合型選抜は、大学によって、11月や12月に実施するところもあります。まだ迷っている方は、気になる大学の募集要項を確認してみてください。
受験は、親子ともに大変です
私は、子どもたちの受験を経験しました。それぞれ性格が違うので、悩みも違いました。でも、どちらのときも、やっぱり大変で、私もつらかったです。
受験は、本当に大変です。本人たちも最初は夢を持って「ここに行く」と目指しますが、試験が近づくと、気持ちが追い詰められていきます。冬の受験なので、体調管理にも気を使います。うちは県外の大学で一般選抜だったので、受験のスケジュールを組んで、宿泊先や交通の予約をして、慣れない土地で試験を受けて、と、思っていた以上にやることがありました。実際にやってみて初めて、こんなに大変なのかと知りました。受験が終わっても、引っ越しがあって、大学生活が始まるまで、怒涛のような日々でした。
その中で、親子でけんかをしたり、家の中がピリピリしたりしたのも、つらかったです。
これは、うちだけではないようです。民間の小さなアンケートですが、2024年に受験した家庭では、約45%が受験期にストレスを感じていて、「家族全体がピリピリしていた」という声が多かったそうです。受験生本人の36%も、家族に対してストレスを感じていて、騒音のほか、干渉されすぎることも挙がっていました。保護者のほうも、難関大に進んだ子の保護者の約6割が、受験期の子どもとの距離感に悩んだと答えています。
また、第一志望に合格した大学生に聞いた別の調査では、親にかけられて嫌だった言葉の1位は「勉強を催促する言葉」で、嬉しかった言葉は「結果に関わらず、努力を褒める言葉」が約4割で最多でした。小さな調査ですが、ヒントになればと思います。(民間のアンケートで、全国の傾向を表すものではありません)
親御さんへ
いい大学に行かせることより先に、子ども自身をよく観察することが大切だと思っています。
「行かない」と言った彼女の本音は、「大学で絵の勉強がしたい」でした。もちろん大学に行くことが全てではありません。
子どもは、「もういい」「どうせ無理」と言いながら、本当の気持ちを自分の中にしまってしまうことがあります。いい・悪いを決める前に、お子さんが何を思っているのかを、ふだんから見ていてあげてほしいのです。
ただ、「この人なら聞いてくれる」と思える人が、そばにいることも大事だと思っています。塾や勉強の前に、まずそこからではないでしょうか。
おわりに
親御さんにも、いろいろなタイプの方がいらっしゃると思います。どのご家庭でも、何でも話せるとは限りません。だからこそ、どこかに、本音を言える人がいてくれたらと思います。学校の先生でも、塾の先生でも、友達や先輩でも、親戚のおじさん、おばさんでも、きょうだいでもいいのです。子供たちが、心に蓋をするような環境にしないでほしいのです。
彼女の本音も、話を聞く人がいて、はじめて言葉にになりました。
最初から決めつけて、自分の可能性を狭めてしまう生き方だけは、親御さんも、お子さん自身も、しないでほしいなと思います。
これから、受験が本格的になっていきます。大変な時期ですが、一番しんどいのは、家の中がピリピリすることではないでしょうか。少しでも家の中が穏やかで、みなさんが安心して過ごせますように願っています。
HESUN ヘスン












y