人は、自分が見たいように世界を見ています。でも多くの場合は、それに気づかないまま、誰かの言動に腹を立てたり、自分を責めたり、あるいは関係から逃げたくなったりすることがあります。よく見ると、それは、その人自身がこれまでに経験してきたことや、背負ってきた背景から、無意識に反応しているようにも見えるのです。
たとえば、目の前の人の態度にモヤモヤしたとき。たったひと言で深く傷ついたとき。私たちはつい、相手が悪いと感じたり、自分が弱いと思い込んだりしがちですが、本当は、その人がどうこうというよりも、今の自分の心の状態が、そう感じさせているのかもしれないと気づけるかどうかのほうが、実はずっと大切なのかもしれません。
家族、職場、学校など、私たちが日々過ごしている身近な場所では、長い年月をかけて、そこでの当たり前が自分の内側にすり込まれていきます。それはまるで空気のようで、疑うことすらしなくなってしまいます。
私たちは、過去の経験というフィルターを通して世界を見ています。そしてそのフィルターは、長く閉じた世界で生きるほど、厚く、硬くなっていきます。それは、新しい出来事や意見、そして新しい人との出会いに触れることが少なくなってしまうからです。
そういった新しいイレギュラーは、ときにこれはこういうものだといった思い込みを打ち破ってくれることがあります。ただ、そうした機会が少ないと、それ以外を受け入れる余地が、次第になくなっていってしまうのです。そして、心の中に積み重なった違和感やストレスは、気づかれないまま、静かに蓄積していきます。
「なぜ、そんなことが起こるのでしょうか」
それはきっと、そのストレスを感じながらも、これまで通りの自分で生きていくほうが、ある意味ではメリットがあると無意識に感じているからかもしれません。他者によって理由はさまざまですが、それはその人が、これまでの人生を生き抜くために選び取ってきた、ある種の戦術だったのかもしれません。
本来はただの感情の引っかかりだったものが、気付けば事故や病気、入院すること、お金の問題など、形を変えて現れ、あなたに「気づいて!」と教えてくれることがあるのです。
高熱で動けなくなったり、入院して日常が止まったとき、当たり前だったはずのことがどれほど大切だったかを、身をもって痛感することがあるようにです。身体に起こる不調や、大切な人との関係に生じる違和感、不幸や予期せぬ出来事、それらはすべて、私たちに生き方のズレを知らせようとしてくれているのかもしれません。
「なぜ、あの人はそんなふうに言うのか」
「なぜ、私はその言葉に過剰に反応してしまうのか」
「なぜ、違いを受け入れるのがこんなに難しいのか」
自分自身のことでも、他者のことでも、身近に起こる嫌な出来事に対して、その「なぜ」に目を向けることができたとき、ほんの少しだけでも、自分という存在を客観的に見つめることができるのではないかと思います。それは、時に深い悲しみや痛みを伴う気づきかもしれません。大切な何かを失うこともあるし、身動きが取れないほど混乱することだってあります。
それでも、自分の思い込みを手放さずに突き進もうとするときは、自分からカオスに向かって歩いていくようにも見えてしまいます。けれど、もしその後悔が、あなた自身にとって新たな気付きのきっかけとなるなら、その苦しみにもきっと意味があるのかもしれません。
ただ、その終わりが「この世を去ること」として訪れてしまう人もいます。もちろん、すべての出来事がそう結びつくわけではありません。それでも、気づきをきっかけに、小さくてもいいから流れを変える行動へと踏み出して欲しいと思っています。
私は、占いという仕事を通して、ようやくその意味が少しずつわかってきました。人のせいにできない場面もあるし、変われたかもしれないのに、一歩を踏み出せなかった自分に直面することもあります。でも、それはきっと、誰にとっても簡単なことではありません。
変わるということは、ときに言葉にならないほどの「恐怖」をともなうものだからです。それでも、私の場合はたくさんの人に触れる中で、人の感情や背景が、少しずつフィルターなしで見えるようになってきたことで、考え方が柔軟になってきてるような気がしています。
でも私だって、ずっといくじなしで、何もできなかったし、今でも迷ってしまうことがあります。それでも、少しずつ、自分の見方を変えていこうとすることが前より自然にできるようになってきました。まだまだ道半ばですが、それでも前に進もうと思えています。
誰もが、目には見えないものを抱えながら日々を生きています。けれど、「明日という日が、いつまでもある」とは限りません。年齢に関係なく、どんな人にもそれは言えることです。だからこそ、後悔のない日々を生きてほしいと、心から願っています。
そしてもし、言えずに抱えている想いがあるのなら、それを「話してみる」ということも、流れを大きく変える方法のひとつだということを、どうか忘れないでいてください。
つつじ、とってもきれいですね。春はとても好きな季節です。
HESUN ヘスン