「迷いがない」「疑いがない」という状態は、一見すると、とても強くて確信に満ちた気持ちのように見えます。でも、見方を変えれば、それは物事を一方向から、しかも限られた部分だけで見ている状態とも言えるかもしれません。
けれども、不思議なことにそうやって見る範囲をあえて絞ることで、人は迷わずに行動に移せるようになります。だからこそ、「思い込もうとする」、「思い込む」、「実行に移す」という流れが生まれるのです。
そして、もし誰かの話が、最初から「きっとこうだ」と決めつけたような内容で進んでいるとしたら、その人の見ている世界は、すでにある程度の枠の中に収まっているのかもしれません。つまり、こうに違いないと思い込むあまり、他の可能性や別の見方に気づけなくなっている状態です。
たとえば、ゴキブリが出てきたとき、多くの人が反射的に「悪いもの」「すぐに処分すべきもの」と感じますよね。ゴキブリに嫌悪感を抱くのは、本能的に当然のことです。暗くて不衛生な場所にすみ、素早く動くその姿に不潔、気持ち悪い、ヤバイって感じてしまいます。さらに、メディアやCMなどで「ゴキブリ=悪」と繰り返し描かれ、殺虫剤やゴキブリホイホイなどを使って排除すべき存在と、無意識のうちに刷り込まれてきます。
でも、実は多くの人が知らないことがあります。ゴキブリは、自然界ではとても大切な「掃除屋さん」なんです。落ち葉や動物のふんなど、人が嫌がるものを食べて分解し、森や土の栄養の循環を支えています。さらに、一部のゴキブリは他の動物のエサにもなっていて、生態系の中でしっかりと役割を果たしています。
こんな視点で見ることはあまりなかったので、あらためて考えさせられます。つまり、人間の生活空間では嫌われ者でも、自然界にとってはなくてはならない存在なんですね。しかも、ゴキブリは人間に直接危害を加えているわけでもありません。一つの側面だけを見て「悪」と決めつける前に、もう少し視点を広げてみると、見えてくる世界があるのかもしれません。
私たちの生活の中にも、実はゴキブリの話とよく似たことがたくさんあります。こうに違いないとか、自分が正しいと強く思い込むことで、人間関係がうまくいかなくなってしまうことがあるんです。相手の話を聞けなかったり、違う意見をすぐ否定したり、つい粗探しをしてしまったり…。でも、そうした態度の裏には、自分は悪くない、自分を守りたいという気持ちがあるのかもしれません。
だけど、もう少しだけ見方を変えて、心をやわらかくできたなら、ゴキブリにだって大切な役割があるように、人にもその人なりの理由や、その人だからこその意味が見えてくるかもしれません。
そうすれば、対立していた関係も和らぎ、調和が生まれるかもしれません。そして、許せなかったことに少し余裕が生まれたり人間関係で悩む人も減っていくはずです。
ただし、大きく変わりたいときには、最初にお話しした「思い込もうとする 」、「 思い込む 」、「実行に移す」という流れが、大きな力になります。
実は私自身、パソコンやスマホの操作がとても苦手で、なんか難しそう、ややこしい、私には無理と思い込んでいた時期がありました。ちょっとしたトラブルがあるだけで、どうしていいかわからず焦ってばかり。わからないことを誰かに聞くのも恥ずかしくて、ますます苦手になっていったんです。でもある時、できないんじゃなくて、ただ慣れてないだけかもと考え方を変えてみました。
そこからは、「絶対にできる!」と思うようにし、わからないことは検索したり調べたりと、とにかく少しずつ繰り返してやってみることにしました。失敗もたくさんしましたが、あきらめずに続けていくうちに、「あれ?できるじゃん!」と感じるようになりました。思い込みを手放すだけで、こんなにもハードルを下げて行動に移せるようなったことが驚きでした。そして、本当にできることが増えたと、実感した経験でもありました。
これもまさに、思い込みが行動を変え、現実を変えたプラシーボ効果のようなものだと思います。自分で「無理」と決めつけてしまわなければ、世界の見え方や選択肢は、もっと広がるのかもしれません。
まとめると、「思い込み」や「限られた見方」があること自体が悪いわけではなく、それがどのように働いているのかに気づくことが大切なのだと思います。ほんの少し視点を変えるだけで、人の意見を受け入れやすくなったり、関係性がやわらいだり、新しい考え方が生まれたりして、自分の中の違った一面(しかも良い意味で)に出会えることもある、そんなふうに感じました。
HESUN ヘスン